田中真紀子更迭によせて(2/7)

アフガニスタン復興支援会議へのNGO参加拒否問題は、
田中真紀子外相更迭という形で“一件落着”しました。
この経過についてはマスメディアが詳しく報道していますので触れませんが、
塩じいの「真紀子はなにも悪くないのに」の一言で尽きます。
小泉人気の急落もむべなるかな、です。
それにしても、この一件、まだまだわけのわからないことが多すぎます。

そもそも小泉首相はなぜ真紀子さんを外相に任命したのでしょうか。
真紀子さんが自民党内では筋金入りの親中国派であることは、
小泉さんは十分承知していたはずです。
こういう人物を外相というポストに据えた場合、
いずれ問題が起こることは必定でした。

彼女の父親の田中角栄さんは、1971年に日中国交回復したときの首相です。
その後ロッキード汚職事件で失脚し、自分の派閥からも見放され、
失意のうちに死去しました。

しかし中国は、角栄さんがどんなに不遇であっても、
最後まで礼を尽くしまた。
訪日した中国の要人は必ず田中邸を訪れたものです。
その中国側の恩義を娘の真紀子さんが忘れるはずはありません。
彼女が親中国派なのは、こうした個人的事情もあるかもしれません。

親中国派であることは、外相就任早々の昨年4月、
中国の唐家セン外相との会談の際にはっきり表れました。
「台湾の李登輝前総統の訪日を今後認めない」と言ったことです。
これが、物議をかもしました。

一昨年、李登輝さんは病気治療の名目で訪日しました。
本国では元気に活動している人物です。
それに台湾の医療水準が日本より劣っているとも思えません。
彼の訪日が、台湾の国際的な立場を強化する政治目的にあったことはみえみえです。
「一つの中国」の原則のもとに中国と国交関係をもつ日本としては、
李登輝訪日を拒否するのがスジというものです。

しかし、日本政府は自民党内の台湾派の意向をいれて訪日を許可しました。
当然、中国側は強く抗議しました。
田中さんは、この問題でまた日中間がぎくしゃくしないように、
当たり前のことを言ったまでです。

次は小泉首相の靖国神社参拝問題。
昨年、小泉さんは、敗戦の日の8月15日、靖国神社を参拝すると公言していました。
それにたいして「異議あり」と明言した閣僚は真紀子さんただひとり、
もちろん過去にもそんな閣僚はいませんでした。

首相の靖国参拝はなぜいけないのか。理由は簡単です。
靖国神社には、戦争犯罪人として処刑され人びとが神様として祀られているからです。
中国をはじめ日本軍に侵略されたアジアの国々には、
戦争の傷痕のいえない人びとがまだたくさんいます。
そうした人びとにとって、自分たちに塗炭の苦しみを味合わせた国の
最高責任者(A級戦犯)たちが神様として祀られていることだけでも不愉快でしょう。
それを、当の加害国の長たる首相が拝むとなれば、はらわたが煮えくり返る思いを
しても不思議はありません。

日本の戦争責任はまだケリはついていません。そのほんの一例をあげましょう。
いま東京地裁で、日中戦争のとき、山西省で日本軍にレイプされた女性10人が
原告となって、日本政府を相手に謝罪と賠償を求める民事訴訟を起こしています。
4月に結審の予定です。
「中国における日本軍の性暴力の実態を明らかにし
、賠償請求裁判を支援する会」という市民グループは、現地に入って綿密な
聞き取り調査を行っています。
近く、その調査をまとめた本が創土社から刊行されます。
タイトルは
『今こそこの思いを!――大娘(ダーニャン)たちの戦争は終わらない』。
戦争が遠い過去の話だと思われている方は、ぜひご一読ください。

戦争犯罪について、日本人のほとんどが忘れていることを一つ補足しておきましょう。
戦後、米・英・豪・国民政府からなる連合国のBC級戦犯法廷では、5690人が裁かれ、
死刑971人、終身刑479人の判決を受けました。
異国の地で処刑された人たちのなかには、本当は無実だった人や単に部下の責任を
かぶっただけの人もいました。それらの悲劇をテーマにした、故・結城昌治さんの傑作
『軍旗はためく下に』は涙なしには読めません。

これにたいして中華人民共和国のBC級戦犯法廷では1062人が裁かれ、
死刑・終身刑ゼロ、無罪1017人。被告のほとんどは、
犯罪行為が証明されたにもかかわらず、
「裁判にかける人数は少なくせよ。死刑と無期懲役はやめよ」
との政府の指示もとづいて無罪となり、帰国することができました。
共和国は実に寛大でした。
しかし日本はその後25年間も中国敵視政策を続けたのです。

田中さんが親中国派であるということは、
同時に対米追随主義者ではないということを意味します。
これまた就任早々、アジア欧州会議(ASEM)で米本土ミサイル防衛(NMD)への
反対姿勢をイタリア外相へ伝えたり、日豪外相会談でブッシュ政権を批判したり、
といった話がポロポロ伝わってきました。ASEMでは「日米安保からの自立」にも
言及したとのことです。
戦後、対米追随を国是としてきた政府・自民党にとっては、とんでもない話です。
「国益を損なう」発言として追及されました。

でも、ブッシュ政権が、冷戦時代に逆行した武力拡張路線をとっていることは誰の
目にもあきらかです。これはおかしいと思うのは、まっとうなセンスです。
つい最近、フランスの外相が「だいたい米国は国際問題をほかの国に相談もせずに、
自分たちの利益と解釈だけで扱う傾向がある」と批判しました。
NATOの一員のフランスはれっきとしたアメリカの同盟国です。
その国の外相が米国をおおっぴらに批判しても、「国益を損なう」とはいわれません。
日本の外相がアメリカを批判すると、袋叩きにあうなんて、おかしなことですね。

どうも田中真紀子さんは、現在の日本の政治状況のなかでは、
外相にはもっとも不適格だった人物のようです。
それならなぜ、小泉さんは真紀子さんを外相にしたのか、という最初の疑問にもどります。
単に小泉さんがアホだったと言うしかないかもしれませんが、それでは困りますね。
真紀子さんの前に何十人外相がいたか分かりませんが、すぐには名前が出てきません。
これからもいまのような政治体制がつづくかぎり同じことでしょう。
しかし田中さんは、何かやろうとしてクビになった外相として、
長く私たちの記憶に残ることでしょう。

こんどの一件で、いまひとつイメージがつかめないのが、
NGOとはなにか、という問題です。
これについては、次回のなんだかんだで言わせてもらいます。