鹿児島県 ウィーズリー家の次女さん

ハリー・ポッターが大好きで、その系統が読みたくてお試し見本を取り寄せてみました。おそらく同じ動機で購入する方も多いのではないでしょうか。ちなみにあとがきによると、ドイツ本国では続編も出版されているそうです。はっきり言ってハリー・ポッターを期待して買ったら裏切られると思います。最初こそ、似たような印象もありましたが、1巻の中盤あたりでもう明らかに別の空気の作品だと思いました。不遇な境遇の主人公がある日突然、日常から非日常へ生活が変わり、異能の素質に目覚めていくというところは同じなんですが、とにかくエミリー・レインの方は良くも悪くも世界観が壮大です。
人間と魔法使いの対立という分かりやすい図式のポッター・シリーズに対して、人間同士の抗争の背後には神々やら天使やら、人ならざる存在が登場し、なるほど、ファンタジー小説なのは間違いない。しかし、スケールがでかい分、設定が分かりにくい。いったい神さまってのはどんな存在で何を考えてるのか? 最後まで読んでもよく分かりません。これが分からないので、物語の大筋やテーマもぼやけてしまっている気がします。しかし、あえてこの本はオススメだと思うのは主人公たちのキャラクターがすごくいいんですね。セリフとか、掛け合いも面白いし、とても人間くさくて、行動も共感できるんですよ。登場人物たちの過去がじょじょに明かされていく最終巻あたりは日付が変わるのも構わず深夜まで読みふけってしまいました。一般的なファンタジー小説ではないかもしれないけど、人間ドラマとして普通に面白かったです。
東京都 秀坊さん

旧約聖書に北欧神話、ギリシャ神話に果てはエジプトの神々と、世界中のあらゆる神様がごちゃまぜに存在している世界観は、はっきり賛否両論ではないだろうか。これらはもともとそれぞれ別の地域に根ざした神話なのだから共存できないのが当たり前なのだが、半ばテレビゲームの世界のごとく、ご都合主義的にあらゆる神様が登場する。そこには当然、設定上の無理が出てくる。エジプトのホルスは本書では姿かたちが鳥のような兵士程度の軽い扱いだが、エジプトでは全能神オシリスとその妻イシスの息子で、相応の力を持った神である。神話に詳しい人なら、このへんのいい加減さに納得はしないだろう。
切り裂きジャックなど、史実の大事件をストーリーに絡めるのは面白い試みだが、オリジナルの真相はいささか現実から飛躍しすぎていて、冷めてしまう。いや、幻想小説なのだから、現実から飛躍するのは当然のことかもしれない。しかし、このあたりのいい加減さを踏まえても、原作者が神話や伝承に深い知識と含蓄を持っていることは伺える。
本書に登場する2種類の「地獄」。同じ「地獄」という単語を使いながら、まったく異なるものとして描かれているように思わせて、どちらも「つねに形を変えている」「繰り返し」というキーワードで繋いでいる。これは、それまで読者が特定の場所だと思っていた、地獄が実は人間の心の奥にも存在するものであった、という原作者の訴えではないだろうか。エミリーたちが心の底に持つトラウマを克服しつつ、人間的に成長するドラマとして、(主に)旧約聖書の地獄をモチーフに描いていく手法はなかなか見事だと思う。
東京都 くるみ割り人形さん

この物語を読んだあと、東京の地下鉄のある駅で電車を待っていたとき、ついこんな想像をしてしまいました。電車が轟音とともに現れては消える洞穴の闇の向こうはどうなっているのでしょうか。東京の地下鉄だって、ロンドンのそれと同じように、もう使われていない側線があるはずです。行き止まりにあるほとんど錆び付いた鉄の扉がこじあけて、せまい通路を進むと、やがてもう一つの世界――東京のウアアルト・メトロポールが展開する……。
ロンドンの地下にあるウアアルト・メトロポールがこの作品の舞台ですが、それがあまりにもリアルに描かれているので、読者は作者の幻想力の産物とは思えないほどです。登場人物(そして読者も)ウアアルト・メロポールと地上の現実のロンドンといったりきたりしても、そこに違和感を感じません。反世界と現実世界が実にスムーズに並立し、不思議な魅力をかもしだしています。 物語はもちろんエミリー・レインを中心に進んでいくわけですが、脇役たちの一人ひとりをおろそかにせず、丹念に書き込んでいます。そのため、奥行きの深い作品になっています。 この本を読んでいて、かつて読んだ19世紀初頭の文豪ホフマンの作品のいくつかを思い出しました。幻想と現実を渾然一体化させる卓抜な手腕という点で、マーツィもドイツ幻想文学の系列の線上にあるいえるかもしれません。そのおどおどろしさも。
茨城県 RealizingValleyさん

最初に読み始めたとき、不幸な主人公が異世界へと旅立っていく、よくあるファンタジーだと思いました。しかしながら、この考えは第一部の後半から崩されました。確かにこの「エミリーレイン」は一筋縄ではいかないファンタジーです。 このファンタジーのテーマは「この世に偶然はない」の一言だと思います。
私がこの本に出会えたのも、そしてこうして感想を書いているのもきっと必然だったのでしょう(笑) 個人的に一番共感したのは、第二部で主人公のエミリーが友人であるアウロラを突き飛ばすに至った経緯です。どんなに仲の良い親友でも、相手のことを気遣っているつもりで起こした行動・行為が逆に相手に誤解などを与えてしまうことは自分の実生活でも時々あることです。それぞれに言い分はあるでしょうけれども、事故の起こる直前の二人の言い争いは、二人が親友であるために余計に心が痛みました。 子どもが主人公なのに、ストーリーはむしろ大人向けといった感じの本作ですが、エミリーと師匠のヴィトゲンシュタインの会話は個人的にはとてもおかしく、この重い物語の中でいい味付けになっているかと思います。
静岡県 木葉咲耶姫さん

私は自他共に認めるミステリーおたくである。だからかの有名な『ハリ-・なにがし』なんか一ページも読んでない。ヒタスラ「ドイル」だし「クリスティ」だ。無論「サラ・パレツキ」や「アーロン・エルキンズ」や「ポーラ・ゴズリング」も。 最近、年一作のペースで新作を発表していた「ディック・フランシス」が亡くなって、えらく、がっかりしていたら、息子から「ローファンタジーだけど面白いよ。是非読んでご覧」と見せられたのが『エミリーレインとリシダス』である。
「ローとかハイとかって何」といったら彼曰く、現実世界と関連を持たせながら物語を展開させていくのがローで全くの空想世界に展開する物語がハイファンタジーだよと。フウム。 舞台はロンドン、セント・ポール大聖堂もホワイトチャペルも現実にある。しかしロンドンの地下鉄よりも深い地中に同じ街があり、セント・ポール大聖堂もホワイトチャペルもあるなんて。そしてここでは地上の何倍もゆっくりと時が進む。羨ましい。
ミルトン、ジョン・ディー、ディッケンズや切り裂きジャックとアバーライン警部といった歴史上既知の人物が新しい肉付けを加えられて登場したり、アフロディーテたちとかアヌビスといった神々?もそれなりの役どころで活躍する。 面白いのはこの物語の主要な登場者ルシファーの設定である。堕天使ルシファーの名前はキリスト者ならずとも知っている。だがルシファーは「なぜ堕天使か、何をしたのか」に、この作者独特の解釈がなされている。 登場人物の口癖やのんびりした会話の中に伏線が仕込まれている。ハイとローの綾なすレールの上を緩急変化するジェットコースタに乗せられているようで気が抜けない。 読み終わったら、疲れちゃった。